2015.05.31 (Sun)
の続き。
『憲法第96条の発議要件緩和に反対する意見書』
日本弁護士連合会 2013年(平成25年)3月14日
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2013/opinion_130314_2.pdf#search='%E6%86%B2%E6%B3%9596%E6%9D%A1%E6%94%B9%E6%AD%A3'
【抜粋・文字強調等は私による】
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現在の選挙制度の下では,たとえ ある政党が過半数の議席を得たとしても,小選挙区制の弊害によって大量の死票が発生するため,その得票率は5割には到底及ばない場合がありうる。現に2012年12月16日の衆議院議員総選挙では,多数の政党が乱立して票が分散したため,自民党は約6割の294議席を占めたが,有権者全体から見た得票率は3割にも満たないものであった。したがって,議員の過半数の賛成で憲法改正が発議できるとすれば,国民の多数の支持を得ていない憲法改正案が発議されるおそれが強い。その後に国民投票が行われるとしても,国会での発議要件を緩和することは,国民の多数の支持を受けていない憲法改正案の発議を容認することとなってしまうおそれがある。
このように発議要件を3分の2以上から過半数に改正すると,憲法改正発議はきわめて容易となる。議会の過半数を握った政権与党は,立憲主義の観点からは縛りをかけられている立場にあるにもかかわらず,その縛りを解くために簡単に憲法改正案を発議することができる。これでは,立憲主義が大きく後退してしまうこととなる。現在,衆議院と参議院の「ねじれ現象」が続いているが,たまたまある選挙で「ねじれ」が解消されれば,多数党は簡単に憲法改正案を発議できることになる。これでは,憲法の最高規範性は大きく低下して,憲法の安定性を損なうこととなる。
なお,大日本帝国憲法第73条は,議員の3分の2以上の出席の下,出席議員の3分の2以上の賛成で憲法改正がなされると定められていた。
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憲法は,国の基本的な在り方を定め,人権保障のために国家権力を縛るものであるから,その改正に際しては国会での審議においても国民投票における論議においても,充実した十分慎重な議論の場が必要である。
ところが,2007年5月18日に成立した日本国憲法の改正手続に関する法律(以下「憲法改正手続法」という。)には,当連合会が かねてより指摘してきた重大な問題点が数多く存在する(2005年2月18日付け,2006年8月22日付け,2006年12月1日付け,2009年11月18日付け各意見書)。例えば,国民投票における最低投票率の規定がなく,国会による発議から国民投票までに十分な議論を行う期間が確保されておらず(長谷部恭男東京大学教授は,国会による改正の発議から国民投票まで,少なくとも2年以上の期間を置くべきだとする。「続・憲法改正問題」日本評論社8ページ以下),憲法改正に賛成する意見と反対する意見とが国民に平等に情報提供されないおそれがあり,公務員と教育者の国民投票運動に一定の制限が加えられているため,国民の間で十分な情報交換と意見交換ができる条件が整っているわけではない。このような状況で憲法改正案の発議がなされ,国民の間で充実した十分慎重な議論もできないままに国民投票が行われれば,この国の進路を大きく誤らせるおそれがある。そのため,憲法改正手続法を可決した参議院特別委員会は,これらの重大な問題点に関し18項目にわたる検討を求める附帯決議を行った。
ところが,憲法改正手続法の問題点には全く手がつけられないまま,現在,国会の発議要件の緩和の提案だけがなされているのは,本末転倒と言わざるを得ない。
国会においては,発議要件を緩和するなどという立憲主義に反した方向での議論をするのではなく,国民投票において十分な情報交換と意見交換ができるように,まずは憲法改正手続法を見直す議論こそなされるべきである。
また,国会の責務という点について付言するならば、2012年12月16日の衆議院議員総選挙は最高裁判所が違憲状態であるとした選挙区割のままなされたものであり,選出された国会議員が果たして適法に国民を代表するものであるのか疑問があるところである。国会はこの違憲状態を黙過することなく,直ちに解消するのが先決である。
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カテゴリ:その他 > メモ
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