2022.06.04 (Sat)
いわゆる「バブル」が崩壊したとは言え、少しは余韻も残っている感じが していた程度には、いまよりはマシだったはずのような時代の一時期、私が勤務していた、そこそこの規模の企業が、後年になって倒産した、ということが あった。ただし、私自身は、とっくに、そこを辞め、他の会社へ転職していたので、あとから、たまたまニュースを見かけて知ったのだが、驚く以上に、さも ありなん、という感想のほうが大きかった。
と言うのも、
その会社は、いわゆる「同族会社」ってやつで、まあ、日本の同族会社なら ありがちなことなのかとは思うんだけれど、真っ先に思い浮かぶのは、「公私混同」「男尊女卑」の社風がアカラサマだったこと。
どのように公私混同、男尊女卑だったかというのは、大きな例を挙げると、
私が所属していた部署と他部署が同居する階のフロア全体に加えて、面談室から応接室、社長室も含めた広範囲に わたる掃除。
これのためだけでも、出勤時間を2時間ほど早めるべしと、先輩社員から申し渡されたときはビックリした。
いちおう、早出した分の手当ては支払われると言ってたとは思うものの、そんなの いらないから、とにかく、ふつうに出勤させてほしいわぁと、のっけからゲンナリしたことはハッキリ憶えている。
わたしゃ、その理不尽な早出のために、寝過ごして慌てて出勤途中、飛ばし過ぎた自転車で思わぬアクシデントを起こしてしまい、かなりのケガを したことも あった。
当時は、会社が間借りしているビルなので、空調を作動させる時間帯も、ビルの管理側によるので、夏季は、早出した日の午前7時とか8時とかでも、もはや朝からキツイ日射し、まだ冷房が入っていない職場のフロア全体がムンムンの暑さ。
この暑さのなかを、掃除機かけて、拭き掃除して回らにゃならん。冷房が入ってないから、もう汗だくだく。
そうして、始業時間が近づいてきたら、ぼつぼつ出勤してきた社員たち一人ひとりの、飲み物の希望を確認する。そのための、たしか、一覧表を貼りだしてあったと思う。
フロア全員の「お茶くみ」と言っても、単に、お茶だけ入れるのと違うよ。
もちろん、お茶も、水を いっぱいに満たした大きなヤカンを、給湯室のガス コンロに据えて沸かしておいて作る。
そのうえで なお、同じフロアの社員たちが、費用を出し合って購入してあるコーヒーを所望する人には、お砂糖は いるか いらないか、いるのなら、角砂糖を幾つ、クリーミング パウダーの類は、入れてと所望している人には、スプーン何杯か、いちいち確認する。
各自が要望する飲み物が入ったら、各自のマグ カップを、各自の机に運んであげる。
ますます汗だくだく。
自分が飲むコーヒーやら お茶なんぞ、飲みたいときに自分で用意して入れるルールに しとけば済むことだろがよと、私は心底いまいましく思ってたけどね。
とある女性社員なんかは(先輩の一人なんだけど、私より年下で、女性というよりも、まだ女子中学生みたいだった)、いささかヌケたオツムと、「天然」過ぎる性格だというので、本名を もじって、皮肉と嘲笑を込めた仇名で呼ばれていた。
もちろん、仕事もトロく、それでいてアッケラカンと、後輩の私なんかに対しては、自分を棚上げにして、なかなかエラソーな説教してみせるというメデタサなもんだから、社員じゅうから小バカにされていたのだが、
でも、根が単純で、性格が悪いというほどじゃないと思っていた私は、他の人たちのように、彼女をバカにしたりする気には ならなかったけれど、ただ、一回、メンドクサい思いを したことが あった。
ほとんど忘れていたことなので、詳細は思い出せないが、
あるとき、その人が、私にとっては不快な思いを して当然だろうというほどの、何か迂闊というか軽率なことを してしまったことが あった。
私は、立腹したわけでは ないけれど、軽く苦情は言ったかもしれない。
そのあとで、
いちおう『秘書課』所属(実際は、使い走りなど雑用係の扱い)の彼女が、『制作部』の私の所まで来て、背後から話しかけたらしいのだが、あいにく、聴覚障碍者である私には よくあることで、まったく聞こえていなかった。なので、振り向きも せず、仕事に没頭していた。
隣りの席の先輩女性社員が(仕事は、まあまあデキるけど、かなり意地の悪いところが ある性格)、この一部始終を見ていて、
これも あとから、
「あんた、さっき、□△が来て、ゴメンとか言って謝ってたけど、無視してたやろ。やっぱり、怒ってるんやなあと思ったわ」
などと、小声で囁いたので、私はギョッとして、聞こえてなかった、、、と言ったけれども、その先輩社員には、言い訳にしか聞こえなかっただろう。なんせ、私は、障碍のことを伏せて入社していたから。
それ以来、他の社員たちの、私に対する視線も、どことなく冷たい感じが漂うようになった。
さて置き、
その、「いちおう秘書課」に所属している、くだんの女子、いや、女性社員が「当番」の日。
朝の「お茶くみ」やコーヒーを入れている最中に、彼女は盛大なクシャミを した。
すると、、同じ部署の先輩男性社員が、
「あーあ、口もとを押さえも せんと」
と、ロコツに顔を顰めたので、先述の、隣りの先輩女性が、これも小声で教えてくれたには、
「あの子な、若いのに、進行中の『歯周病』やねんて。『歯周病菌』て、知ってるやろ?せやから、みんなのマグ カップに向かって、今、もろにクシャミしてたわ言うて、※□さん(←顔を顰めた、先輩の男性社員)が怒ってるねん」
くだんの女子じゃなかった女性社員は、自分が飲むコーヒーを入れてる最中にも、私の直属上司が、突然、意を決した ようすで立ち上がり、
ふだんは、いたって優しい紳士タイプの青年なのに、いつになく険しい表情で、つかつかと、彼女の傍らに行き、何やら注意されているようすなので、どうしたんだろ?と思っていると、これまた、隣りの先輩女性がヒソヒソと教えてくれたのは、
「あの子な、黙ってたら、何杯でもコーヒー入れて飲むねん。みんなから集金して買ってるコーヒーやん。せやから、□△さん(←直属上司)が、『コーヒー飲むのは、3杯までに しとき』って、注意してるねんw」
ということだった(苦笑)
私の高校時代のクラスメートは、小学生時分に、どちらも教師で あった御両親が別居し、しばらくして、ともに家を出ていた おかあさんが病死してしまった。
おにいさんが一人いるけれど、おかあさんのほうに付いて出た子どもは彼女だけで、しかたなく、母娘二人で暮らした家を出て、父親の もとへ帰った。
亡き母親と険悪な仲だったゆえ、別居の原因でもある祖母の居る実家に戻ってからは、おとうさんの後妻さんが嫁いでくるまで、食事の用意や家事全般を担い、今度は、祖母の看病も しなければ ならなくなったりで、これも「ヤング ケアラー」、良家の育ちであるわりに、かなり苦労したらしい。
やがて、当時は国内1、2位を争う大手の化粧品会社に就職し、海外との取引や折衝業務が多く、あたりまえに英語が飛び交うようなエリート部署に配属されたのだけど、
仕事中、自分が、お茶を飲みたいときに、よく気の回る、利発な彼女は、つい考え込んでしまい、新入りの女性社員として、気を遣い過ぎ、敢えて、上司の分の お茶も運んだら、ヘンな目で見られてしまったとか、いろいろ悩んでいたことが あった。
社内に おいては、上司であれ誰であれ、自分の飲み物は自分で、と いう暗黙的ルールになっていたからなのだそうだが、その話を聞いた私は、さすがに大企業だなあと、単純に感心したものだ。
彼女が配属された部署は、先述したように、海外との連絡業務が多いので、外国の法律・法規関係や語学に堪能なエリートばかりが所属し、東大卒もゴロゴロしている部署なので、単に学歴などだけを見たなら、なぜ、社内一のエリート部署に、珍しくも女性社員の一人として配属されたのか、彼女自身も予想外だったらしいのだが、入社試験の成績が、錚々たる名門大学卒の才媛たちをも上回っていたのだろうと、私は推察している。
高校時代に、私らの担任から、何かの ひょうしで、ふと聞かされたことが あったのは、学年でもトップ クラスの優等生だった彼女は、わが校「三羽からす」の一人と呼ばれている、ということだった。
それはフシギでも何でもない。彼女は、総じて成績優秀だったのだから。
不可解なのは、私だ。
私も、その「三羽からす」のうちの一人と言われたので、どういうこと?と甚だ怪訝に思い、意味を知らなかったので、じつは「三ばか・ラス」とバカにされているのでは あるまいか?とまで疑ったw
しかし、だとすれば、まぎれもなく優等生の彼女が、そのうちの一人で あるというのは どうにも不可解なので、帰宅してから、うちの親らに、「三羽からす」とかいうのは、本当は悪い意味なん?と尋ねると、親らは苦笑しながら、いや、それは確かに褒めコトバなんだよ、と言った。
ますます不可解だと思った私だったが、
ただ、彼女と、もう一人の「カラス」のように、まんべんなくデキる典型的優等生では ないけれど、ある分野に限っては、毎度まったく勉強せずに、真面目で勤勉な彼女たちを上回る成績の科目も あったことは事実なので、まあ、そのあたりの おかげなのかな?と、とりあえず納得しておいた。
私なんどまでも含めて、「わが校の三羽からす」と呼んでくださった恩師たちを思うと、なんとも申し訳なさを感じてしまう しだいで ある。
他の「カラス」とも、はなはだバランスが とれないしねw
センセェ~ごめんなさい。。。
【続く】